特定調停

特定調停とは?メリット・デメリットや手続きの流れ、任意整理との違いを解説

特定調停とは、債務整理の方法のひとつです。債務者自身で簡易裁判所に申し立てを行い、返済条件の緩和などを実現し、借金の整理を行うことができます。

本記事では、特定調停について、基礎知識やメリット・デメリット、手続きの流れをご紹介します。似ている任意整理との違いについてもご紹介するので、合わせて確認しておきましょう。

目次

特定調停とは何かをおさえよう

まずは、特定調停とはどのような手続きかをおさえていきましょう。特定調停とは、債務整理の方法のひとつで、借金をしている本人が自ら簡易裁判所に申し立て、債権者との調整を図る民事調停です。

借金の返済が滞っている場合に、簡易裁判所が間に立ち、債務者がおかれている現状の把握、債務者の意向などを調整し、債務をどのように支払っていくかを決めるので、債務者は生活や事業の立て直しを図ることができます。

借金の見直しには、引き直し計算を活用します。引き直し計算とは、取引履歴をさかのぼり、正しい金利で返済した場合の金額を算出する方法です。高い金利で借りていた場合に、金利を見直すことで、金利の差で生まれた返済金額が減る可能性があります。

ただし、あくまで返済可能な範囲での調整を図る手段であり、特定調停を利用するには条件があります。主な条件は、減額後の借金を3年ほどで返済できること、継続収入があって返済能力を認められることの2つです。

借金額が多額で返済が長期に渡る場合、返済能力が認められない場合は、特定調停を選択できないので、個人再生や自己破産へ移行しなくてはいけません。

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特定調停と任意整理にある7つの違い

特定調停と同じく、債務者と債権者との和解を図る手続きとして、任意整理という方法があります。借金の減額による生活・事業の立て直しといった目的は同じですが、仲介者や費用、減額幅など多くの違いがあります。項目ごとにどのような違いがあるか、詳しく見ていきましょう。

代理関係

特定調停と任意整理には、代理関係に違いがあります。特定調停は、債務者本人が簡易裁判所に申し立てるため、代理関係はなく、本人のみが特定調停に関わります。ただ、弁護士を代理人に立てることも可能で、必ず本人だけで行うのではありません。

一方で、任意整理は弁護士が債務者の代理人になって、債権者との調整を図る手続きであり、弁護士との間に代理関係があります。個人間の交渉を弁護士に任せるもので、私的な手続きとも言えます。

その点、特別調停は代理関係はないものの、簡易裁判所を介するので、公的な手続きとなります。

債務名義

特別調停と任意整理にある公的か、私的かという違いは、債務名義に大きく関わります。特別調停は公的な手続きであり、債権者との調停が締結したときに公的な文書「調停調書」が作成されます。調停調書には、法的な拘束力があるので、万が一返済が滞った場合には、給料差し押さえなど然るべき対処が強制執行されます。

任意整理については、あくまで債務者と債権者との私的な契約です。契約締結にあたって作成される和解書も私的な文書であり、特定調停のように約束が守られなかったときに強制執行する力までは持っていません。借金を踏み倒すことを前提に考えてはいけませんが、返済できるか不透明な場合に、任意整理は債務者のリスクを減らすことができます。

費用

特定調停と任意整理の大きな違いが手続きにかかる費用です。特定調停は、弁護士など専門家に依頼することができない債務者のためにつくられた制度であり、1社あたり500円で手続きを始められます。その他費用を含めても、数千円で済むので、返済に困ったときに気軽に取り組める手続きです。

一方で、任意整理は弁護士など専門家に依頼しなくてはいけません。費用は、法律事務所や弁護士個人によって幅がありますが、数万円かかるのが相場と言われています。着手金だけで数万円かかり、調停成立にあたって追加料金が発生する場合もあるので注意が必要です。

借金の返済に苦しむ方にとっては、費用を捻出するのが難しい状況も多いでしょう。費用と比べるならば、特定調停を選ぶのが得策です。

借金の減額幅

借金の減額幅については、どちらも引き直し計算を活用するため、特定調停と任意整理の間に大きな差はありません。ただ、調停にともなう遅延損害金や将来利息の取り扱いに違いがあります。

任意整理では、原則遅延損害金は加算されません。稀に将来利息や遅延損害金が請求される場合もありますが、特別な事情がない限りは減額された借金のみの返済です。

任意整理に対して、特定調停は遅延損害金が加算される場合があります。返済とは別に支払いが発生する可能性があるので、注意が必要です。

取立がストップするタイミング

債務者にとって、どのタイミングで取立がストップするかも重要なポイントです。特定調停と債務整理ではタイミングに違いがあり、特定調停では申し立て後ストップします。個人で申し立てに向けて準備をする必要があるので、準備から申し立てまでにタイムラグがあると、その分借金がかさんでしまいます。

任意整理は、弁護士に依頼後取立がストップするので、依頼さえすれば借金が増えることはありません。ただその分、特定調停よりも費用がかかることもあって、トータルコストに大きな差はないでしょう。

すぐにでも手続きを始めたい、借金をこれ以上増やしたくない場合には、任意整理の方がメリットがあります。

債権者の同意

どちらも債権者の同意が必要ですが、任意整理の場合、話し合いに応じない債権者は少ないと言われています。多くの場合、任意整理に応じ、両者の合意のもと借金を減らせることが多いです。

特定調停は法的な手段であり、債権者の同意がない場合、調停不成立となり、特定調停は実現されません。ただし、調停委員会によって適当な内容への調整を図ることができるので、9割以上が成立するようです。

過払い金の取り扱い

余分に返済していた過払い金が戻ってくるのは、任意整理のみです。引き直し計算によって明らかになった過払い金を債権者に請求でき、多額のお金が戻ってくる場合もあります。

一方で、特定調停は、過払い金請求を行うことはできません。借金の減額のみであるため、払いすぎていたとしても、お金が戻ってくることはないです。過払い金を取り戻したいという方は、任意整理を選択しましょう。

特定調停と任意整理の違いを徹底解説。自分に合った債務整理を選ぼう

特定調停の6つのメリット

特定調停と任意整理にはいくつかの違いがあり、特定調停だからこそ実現できるメリットもあります。個人でできることや交渉方法などのメリットをご紹介します。

個人で申し立てできる

特定調停は、弁護士に依頼することなく、個人で申し立てできます。調停委員が債務者をサポートするので、法律に詳しくない方や弁護士の依頼費用を捻出できない方でも、特定調停を始められます。

円滑に債権者と交渉できる

特定調停では、簡易裁判所において、調停委員が債務者と債権者の間に立つので、対面しながら円滑に交渉を進められます。弁護士に任せられる任意整理とは違い、交渉の場に参加でき、透明性も高いです。債権者との関係が思わしくない場合の泥沼化も防ぐことができます。

債権者を選ぶことで財産を維持できる

任意整理との共通点でもありますが、特定調停では、債権者を選んで交渉することが可能です。住宅や自動車などの財産以外の債権を選べば、財産を維持したまま債務を整理することができます。家族がいる方などは特定調停に向いています。

強制執行の停止を申し立てられる

特定調停後に返済が滞ると強制執行が行われますが、不当な強制執行は停止を申し立てられます。任意整理では法的拘束力がなく、強制執行は止められないので、交渉成立後もリスクがあります。特定調停に限り、正当な理由があれば止めることが可能です。

費用が安い

弁護士を依頼する必要がある任意整理に比べて、費用が安いのが大きなメリットです。1社500円の費用と郵便切手費用のみで、数千円に抑えられます。なるべくお金をかけたくない、費用を捻出できない場合に、おすすめの債務整理です。

借金の原因を問わない

特定調停では、借金の原因を問われないので、ギャンブルや浪費など債務者に非があっても手続き可能です。返済不能であることも求められないので、返済不能になる可能性がある場合にあらかじめ特定調停することができます。

知っておきたい特定調停のデメリット

特定調停には、個人で申し立てられること、費用が安いなどのメリットがあるものの、デメリットも多く存在します。特定調停を申し立てる前に、デメリットを確認し、検討に役立てましょう。

取り立てを止めるまでに時間がかかる

特定調停の場合、申し立てが行われた時点で取立がストップします。特定調停を始めるには、特定調停申立書や関係権利者一覧表などの書類を自分で作成する必要があります。そのため、法律の知識がない方にとっては、時間や手間がかかり、速やかに特定調停に移るのは難しいです。特定調停が始まる前に、さらに借金が増えてしまったり、債権者との関係が悪化したりする可能性があります。

また特定調停では、簡易裁判所に出廷しなくてはいけません。裁判所出廷は平日のみであり、仕事を休む必要があります。仕事を休むことができなければ、その分取立も続くので、返済額がかさむでしょう。

返済が滞った場合、差し押さえられる可能性がある

特定調停には法的拘束力があるので、返済が滞った場合に強制執行が行われます。給与差し押さえなど財産を凍結され、早急な返済が求められます。強制執行は場合によっては止められますが、正当な理由がなく、返済計画の管理を行っていない場合は例外です。

強制執行でも返済が行わなければ、信用に傷がつき、ブラックリストに載ることになります。ブラックリストは5年ほど情報が残るので、その間クレジットカードやローンなど信用を必要とするものは一切利用できません。特定調停を利用する際には、確実な返済計画を立てる必要があります。

過払い金を取り戻せない

任意整理ではできる過払い金請求ですが、特定調停では過払い金を取り戻すことはできません。引き直し計算によって、多額な過払い金があったとしても特定調停の場では取り戻すことは不可能です。

過払い金を取り戻すならば、特定調停とは別に、過払い金返還請求をする必要があります。

遅延損害金が発生する場合もある

任意整理の場合は、将来利息や遅延損害金がかからず、元の借金のみが債務整理の対象となります。しかし、特定調停には、遅延損害金が加算される場合があり、借金の減額以上に費用がかさむ可能性があります。

遅延損害金が発生する場面としては、交渉が難航している場合が考えられます。債務者と債権者の希望が合わず、長期間に及ぶ交渉になると、遅延損害金を請求されてしまいます。実際に遅延損害金を請求される事例は多くありませんが、交渉の不調には気を付けましょう。

必ずしも減額されるとは限らない

特別調停は、借金が必ず減額するとは限らず、引き直し計算で差が出なかったり、調停が不成立になったりすると、減額は実現されません。

また調停委員が専門家ではなく、交渉が不調に終わることもあります。調停を結んだものの、実は払い終えていた、過払い金があったなど、債務者に不利な調停になっているかもしれません。

より確実な特別調停を結ぶためには、弁護士など専門家を立てたり、計算を依頼したりするなどの方法を検討しましょう。

特定調停のデメリットに要注意!メリットや向いている人もご紹介

特定調停手続きの流れを徹底解説

特定調停のメリット・デメリットを把握した上で、手続きの流れを理解しておきましょう。実際に特定調停を行う方は、本人で手続きをする必要があるので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

【ステップ1】申立書類の作成・申立

特定調停を申し立てるためには、まず各種書類を作成しなくてはいけません。必要な書類は以下の通りです。

  • 特別調停申立書(正本と副本1部ずつ)
  • 財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料
  • 権利関係者一覧表
  • 資格証明書

特別調停申立書とは、裁判所の窓口で入手できる書類で、申立にあたっての必要事項を記入するものです。他にも収入のわかる書類や申立に関わる人物の一覧表などが必要になります。

もし申立書類の作成が難しい、書類作成に充てる時間を確保できない場合には、弁護士や法律事務所への依頼も選択肢の一つです。

申立書類を一通り作成できたら、債権者の所在地を管轄する簡易裁判所に申立を行い、申立が受理されるのを待ちましょう。

【ステップ2】1回目の調停期日

申立が受理されると、簡易裁判所から事件受付票が届き、裁判所に出向く調停期日が指定されます。一般的には、2回の調停期日が設定されるので、最低でも2回裁判所の赴かなければいけません。

1回目の調停期日では、申立を行った債務者のみが出廷を求められ、返済計画案を作成します。調停委員会とともに、提出書類を参考にして減額できる債務や適当な返済などを検討し、債権者も出席する2回目の調停期日に向けて、準備を行います。

【ステップ3】2回目の調停期日

2回目の調停期日では、債務者だけでなく、債権者も出廷し、交渉の場が持たれます。1回目の調停期日で話し合われた内容をもとに、双方が合意できるように返済計画を調整していきます。

ただ、債務者にとって、債権者と顔を合わせるのを避けたい方も多いでしょう。その場合は、同じ日に出廷するものの、意見陳述を個別に行う配慮がされるので、トラブルが起きていたり、ストレスを感じていたりしても安心して調停を進められます。

また、債権者が「調停に代わる決定」を依頼する場合、出廷しないことも多くあります。調停委員が債権者に電話などでコミュニケーションをとり、債務者と債権者が同意できるように、債権者不在のまま協議を行います。

【ステップ4】調停成立

債権者の同意が得られた場合、調停調書が作成され、調停成立となります。調停調書は法的な拘束力を持ち、成立後返済計画が履行されなかったときは強制執行が可能になるので、成立後の返済を怠らず行いましょう。

本記事では、特定調停の基礎知識やメリット・デメリット、手続きの流れを解説しました。

特定調停は、任意整理とさまざまな違いがあり、メリット・デメリットも異なります。特定調停には、個人で申し立てられることや財産を維持できること、費用が安いことなどのメリットがある一方で、取立停止までの時間や過払い金請求、差し押さえリスクなどのデメリットも目立ちます。

メリット・デメリットを踏まえて、任意整理と比較してどちらを利用するかを決める必要があります。借金に悩む方は、本記事を参考にして、債務整理のひとつの方法として検討してみましょう。

特定調停の手続きの流れを徹底解説!流れをおさえてスムーズな手続きを

弁護士法人きわみ事務所
代表弁護士 増山晋哉
登録番号:43737

昭和59年大阪府豊中市生まれ。平成21年神戸大学法科大学院卒業後、大阪市内の法律事務所で交通事故、個別労働紛争事件、債務整理事件、慰謝料請求事件などの経験を積み、平成29年2月独立開業。

きわみ事務所では全国から月3,500件以上の過払い・借金問題に関する相談をいただいております。過払い金請求に強い弁護士が累計7億円以上の過払い金返還実績を上げていますので、少しでもお困りのことがあれば無料相談をご利用ください。

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